「あゝ、荒野」感想 その1
寺山修司原作、夕暮マリー脚本、蜷川幸雄演出舞台「あゝ、荒野」青山劇場公演の感想です。
海外在住の私にはナビダイヤルが大きく立ちはだかり一時は諦めた観劇でしたが、人様のご好意に救われての日本遠征となりました。
私が鑑賞に至ったのは11月21日(月)のソワレと26日(土)のマチネ。
私の感想はちょっと辛口な部分もあるかと思うのですが、正直に思ったことを数回に分けて書きたいと思います。
(大方褒めてますが。)
ネタバレを多く含みますので畳みます。
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まずは全体的な感想。
べた褒めです。
こんなに素晴しい、どの部分をとってもクオリティの高い舞台を観ることが出来てとてもうれしく思います。
アメリカくんだりから出てきた価値大有りでした。
さてさて。どこから褒めようか。
まずは照明だな!!!!
あの照明デザイン、あれ以上のものはないよね、って位的確に時代や登場人物を取り巻く環境の空気を醸し出すことに成功していたと思います。少しスモーキーで素朴な感じのする、しかし少々の冷たさをまとう照明が全体を通してあり、かつ退廃的な「荒野」をも感じさせて。
あれね、普通にフルードで照らしただけじゃ出ないですよ。やっぱり色々とERSとか(最近じゃLEDの照明もあるし)取り混ぜて、色フィルムも上手に重ねてあの絶妙な明かりの色を作り上げて行くわけです。例えばオレンジを多くするとレトロな感じ〜、とか青みを増すと悲劇的な感じ〜とか、ね。緑を入れるとクリーピーな感じになるでしょ?でも頭でそういうのを知っていても、実際ぴたっとくる色味まで持ってくるのって結構地道に時間のかかる作業じゃないかな…。装置との兼ね合いもあるしね。
それに照明は追うピンスポット以外は固定なわけですから、シーン毎にどのライトが点くとかを、その場面場面の装置や俳優の立ち居地から全てちゃんと計算して配置してある訳で。それが無駄なくピタッと決まるのはさすがプロの技なんだなぁ…。
そして特筆すべきはクライマックスのリングが登場する際のあの神々しい蒼白い光の柱です。あの光によって、これからあのリング上で起こることが決して明るく楽しいことではない、さらには何か運命的なことが繰り広げられるいう予告をしっかりと表現していました。
死の天使が飛ぶ時の色と共通なのも、暗示のひとつ。
もちろんそれは新次の演技からも、バリカンの演技からも十分に伝わってはいたのですが、あの照明とのコラボによってその心理的効果は絶大でした。
素晴しいです。
照明ボードオペレータの方も、3時間15分の間、キューに合わせてシークエンスボタン押し捲っていたんでしょう。お疲れ様でした!
装置も良かったですね…。
あのジャングルジムなんて相当良かった。もちろん脚本にジャングルジムが出てくるから用意されたものなんだろうけど…。あれを舞台の中央にドデンと構えるとは。
あのジャングルジムのシーンは芝居のハイライトとしてピックアップされるべきいくつかのシーンのひとつで、当然装置もそれなりにインパクトのあるものを持ってきたわけですね。脚本をさらっと読んだら見逃してしまうかも知れないけれど、わざわざジャングルジムを持ってくる夕暮マリー、最強。鉄の枠組みの塊が時代やすさんだ感じを良く現していました。だって今、ジャングルジムなんて見ないよね?なんでも危険だとかで。だからあれは昭和の、さらには人を社会の枠にはめたがる日本社会の象徴。枠組みがガッチリ決まっている割に結構中は空洞…とか。ちょっとくらい危ないものでも無造作に存在できた時代。その天辺で叫ぶ新次。枠に嵌り切らない彼のいる位置。そこにバリカンを招き寄せるということで、枠に嵌り切らない事もそんなに悪いことじゃないと開き直っている新次の前向きさを感じました。このシーンについては後ほどもっと触れたいと思います。
全体を通して現れるネオンサイン。ちょっと消えかかったものもあったらもっとリアルだったかな〜という気も無きにしも非ずではありますが、大掛かりな装置を作らずに十分歌舞伎町を伝えられていました。トーンダウンしたミスサイゴン(劇中の繁華街)、ってなイメージ。綺麗です。スチール写真見ても解ると思うけど、凄く計算された絵ですね。その下を時に人々や車が行き交い、時に語らい、時に性行為に及ぶ。実際の歌舞伎町で起きていただろう情景の縮図。
そしてそこにうっすらながれる「サンパーク」の宣伝ノイズ。西武新宿駅近くを通ると、いつも聞こえてくるあれです。ああ、歌舞伎町だなぁ…と、分かる人には分かる粋な演出(by 音響)です。
ラブホテルのシーンでは、たくさんのテレビモニターが蒼白く光るけれど何が映し出されているのかは私の席からは分からず仕舞いで、でも気になり、ちょっと目障りな感じを受けました。いっそのこと砂嵐にしておいてくれたら或いは気にならなかったかも?まぁ、退廃的な感じは出てましたのでそれが狙いだったのなら成功なんでしょうが。
ああっ、照明と装置だけでこんなに書いてしまった。
一応こちらで舞台技術の準学士を終了したもので…裏方オタクっぽくってすみません。
ワタクシ、照明デザインのクラスでは一ヶ月かかってファイナル試験の照明デザインをしましたが、Bしか取れなかったんです。図面は超ビューティフルに仕上がったんですけどねぇ。ツイストが足りなかったって。全く、照明は奥が深いです…。
なので今回のこの照明がすごくいいんだよ!っていうのをお伝えしたくて。
装置もね、ただト書きにあるものをそろえるだけじゃないんだよ、ちゃんと脚本を理解して世界を作り上げるべく誂えるんだよ、って。
芝居を見た感想と言うとつい役者の演技とか演出とかにばかり触れられがちですが、裏方さんの仕事も素晴しかったということをお伝えしたかった!
…のです。
その2に続きたいと思います。
懲りずにお付き合い頂けたら幸いです。-----